如何にして我々はそれを知るのか、ということと科学と教養の話

科学の話

休日に読んだ本。量子物理学者として有名なスティーブン・ワインバーグの本。

科学の発見

科学の発見

 

 とても面白かった 。主に西洋の科学史をなぞって、現代的な科学が如何にして発見されたのかを説明する歴史書。特に、万学の祖とも言われるアリストテレスデカルトの方法に深刻な欠陥があったことを指摘している。

 

著者は多分、「歴史学者」に気を使って、現代の基準で過去の大学者(特にアリストテレス)の評価を行うことを不遜と謙遜している。でも、E.H.カーがいうように、「歴史とは、現在と過去との対話」であるなら、現代の目を持って過去を探求することは歴史家として正しい。

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

 

 

そして、多分、著者の言う科学と、その論理的な帰結として 定義される「非科学的」方法との微妙な関係は現代でも生々しい問題だと思う。

これは自分の想像だけど、多くの自称「科学者」が著者の言うような科学的方法に則っていない、という問題意識があるのではないか。

 

科学とは何か

著者は振り子の運動理論で実績を残したホイエンスの下記の文を「現代物理学の方法を言い表した、考えられる限り最上の表現である。」と評価している。

幾何学者は不変で議論の余地のない公理によって命題を証明するが、本書では、原理はそこから引き出される結論によって証明されるからである。物事の性質上、他のやり方は不可能である。

 

科学における原理は、論理的/理性的に導き出せるものではない。数学はその意味で科学ではない。アリストテレスの目的論、世界を動かす根本原則へのこだわりは科学の発展を阻害した可能性がある、と著者は示唆する。

 

原理は「結論によって証明される」から、科学では、実証的裏付けが必要。特に原理を検証するために人工的環境を作る実験が重視される。

一方で、実証と原理の微妙な関係にも注意を払うことも語っている。不要な精密さ(著者の考えでは、おそらく、ギリシャ哲学以来の知性主義の産物)や現象を完全に説明しようとすることが誤りの元になる例を挙げている。

コペルニクスには知る由もなかったが、もし彼が周転円で頭を悩ませず、観測結果との小さなズレを放置していたら、彼の理論はもっと真実に近づいていたはずである。P205

 

そして、科学では、なぜそうなっているのか、という問いは、多くの場合ひとまず脇に置いておいておくべきものだという。

素粒子の標準モデルがさらに根本的な理論から導き出せるとしても、どこまで深く掘り下げていっても、われわれは純粋な理性に基づく根本に到達することはないだろう。私と同様に、現代の大方の物理学者は、最も根本的な理論に対しても「どうしてそうなっているのだろう」という疑問を今後常に抱かざるをえないだろうという事実を甘受している。 P316

 

以上のような科学についての著者の捉え方は、自分のような文系から見ても全く違和感がない。マックス・ウェーバーやE.H.カーもほぼ同じことを言っている。社会科学の世界では、ニュートンに代表される物理学的方法との差異を強調することが多いのだけど、この本によって、本質的には変わりはないと理解した。

 

この本の意義と科学的方法

・観測データから原理を構築し、実測や実験によって検証する。

・実測には限界があることを考慮する。

上記のことは何も研究者だけでなく、普通に生活したり、仕事したりする上で非常に有効。要するに、科学的方法とは「より正しい知識を得る効果的なやり方」なのだと思う。

 

人文の意義

ワインバーグギリシャの哲学者たちは科学者ではなく「詩人」であると評した。これはとても的確な評価だと思う。

彼らは

・世界がそうなっている理由や目的を求め、それを説明する根本原理を求めた

・根本原理には精緻さ/完全さを求めた

科学の歴史が示しているのは、それを追求していても、「正しい知識」は得られない、ということかと思う。

 

でも、それらを求めてしまうのは、人間の脳にビルドインされたバイアスなのではないか、とも感じた。だから、哲学や宗教や詩が人間には必要なんだろう。そうしたバイアスがどのように人間に備わり、人間に役に立っているのかは、近年は認知心理学や進化生物学によってかなり、有望な説明がされているように思う。

 

現実を生きるサル 空想を語るヒト―人間と動物をへだてる、たった2つの違い

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進化と人間行動

進化と人間行動

 

 

 人が人生に意義を求めるのなら、科学だけでは解決できないかもしれない。役にはたつと思うけど。そこには、いわゆる科学者だけでなく、宗教家や芸術家みたいな役割が確実に必要だと思う。ここら辺の関係を理解することあたりも一般教養に含まれるといいと思う。

 

いっさいの理論は灰色であり、緑なのは黄金(こがね)なす生活の木だ。『ファウスト

 

 ただ、世の哲学者、人文学者は「より正しい知識」を持つ科学者ではなく、どちらかというと詩人や小説家と同じカテゴリに入るんだと自覚はしてほしいけどね。

 

 

 

 

 

お仕事を考える本

今読んでいる本。久しぶりにビジネス関係の本

 

良い戦略、悪い戦略

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 これは再読

 

事業の定義―戦略計画策定の出発点 (マーケティング名著翻訳シリーズ)

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はじめての事業計画のつくり方 (21世紀スキル)

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ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (単行本)

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組織開発とかの位置付けとタイミング

 

これの続き、 

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)

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ほんの中で、組織開発・組織活性化コンサルティングの話が出てくる。そこまで批判的ではないけど失敗例というか、何の意味があったの、的な扱い。

 

逆に、著者は経営、組織行動の変革の結果として文化変革や活性化を起こすことをを推奨している。

 

まあ、自分は著者の意見に同意する。著者が言っているように、調子の悪い組織はある種変な甘えや、たるみがある場合が多い。そういう時に、組織内において、いわゆる組織開発的な、対話的なアプローチは行動や文化を変えるようなインパクトを起こせない場合が多いと思う。組織に蔓延する現状維持のエネルギーに取り込まれる。

特に、現実的な利害構造がその文化を助長している部分があるので、知的なシステム構造の分析と対策が欠かせない。心や関係を変えようとしてもシステムが邪魔をする。システムを構造的に変化させるには、知的な分析と判断を行い、リスクをとって対策を遂行している必要がある。

 

そうした組織は病んでいる部分があるから、組織に属する個人が外の人と対話したり、カウンセリング的なアプローチを求める、という構図はとても共感できるし、個人にとってはメリットも大きい。

 

じゃあ、組織開発やダイアローグの効果的なポイントは何だ、というと、

一つは、例外的に困難な状況、リストラ後、合併後などにおける関係性構築と文化の立て直し。

もう一つは、組織に切迫感や危機感がある程度あることを前提に、来るべき変化の時を、より安全に、ストレスなく、スムーズに、行うための継続的準備

 

上の二つくらいなんじゃないかな、と思う。

 

個人の変容という観点からも、人生イージーモードの人は、なかなか変われないことが多い。

組織が変われば、心が変われば、いろんなことが可能になる、てのは多分本当だろう。けど、人の心や組織の文化は目に見えないけど独自の論理で動いているもの、好きなようにいじくれるものでもない。

 

 

 

 

 

使えるリーダーシップの要件

いつもながらの雑文。

 

これ読んで、色々考えた。

 

総じて、自分に納得のいくものばかり。

 

前職がずーっと調子が悪かったから、うまくいかない、未熟で稚拙な変革の試みって嫌というほど見てきた。上記の本は、自分が色々考えて、こういうことなんだろうな、って仮説をかなり裏付けてくれている。

リーダーシップの要件と言っていいと思う。本では、「志」とか、「生き方」みたいな話やコンセプトの重要性も当然出てくるんだけど、他のリーダーシップ関連の本でも語り尽くされている部分だと思うので、割愛。

 

・現場を知る

 巷で言われている、マネージャは人を通して成果を上げる、現場から離れるって話は嘘だと思う。マネジメントは現場を育てなきゃいけないし、現場が成果を上げるための支援をする必要があるし、時には現場に入って問題を解決しなきゃいけない。詳細はわからなくても、どのように現場が動いているのか、という精緻なモデルは持っていなきゃ意思決定ができない。上級管理職になってもそうだと思う。数字は自分の仮説が正しいかどうかを検証するために使う。

 多分、日本企業の現場の抵抗が強いのは、マネジメント層が自分の仕事をモデル化する能力の低さにあるんだと思う。現場に誤魔化されるようではダメ。現場についてモデルを持ってないから、意思決定するために下から「報告」を求める。

 

 

本の中では、事業部長が個別の事情を詳細に聞き取って、現場の現実をつかんでいく様子が描かれている。もちろん、ほんの中では現場一辺倒の批判もあるんだけど。

 

・ビジネス、商売を知る

 本の中では、創って、作って、売る、って話が出てくる。今時だったら、売ってから、サービス提供する、みたいな話もあるだろうけど。いわゆるバリューストリームマップ。そして、自分たちが結局のところ、顧客のどんな問題を解決しているのか、これを意識していないと金にならない理想論になってしまって結局ダメ。また、SIみたいなプロジェクトでも、結局顧客の商売を理解していれば交渉や調整が格段にしやすくなる。

 

・アイデアがある

 小説の本筋ではなく、解説のところで、「創意工夫」というのが出てくる。これもリーダーに必須の要件。想定外の問題が多発する中で複数の問題を一挙に解決する可能性のあるアイデアをぽんぽん出せないと結局やりきれない。また、人のアイデアを引き出したり、潰さずにうまく使うのも必要。

イビチャ・オシムは「アイデアのないものはサッカー選手になれない」って言ったけど、アイデアのないものはリーダーにはなれない。

 

・粘り強く目標達成に努力するが、結果に執着しない

 これはかなり自分の解釈が入っている。抜擢されて社長になった人が「この改革は自分にとって、リスク0」という判断をして納得するシーンがある。困難な仕事であればあるほど、当然失敗の危険性も高い。じゃあ、失敗のことを考えず、絶対に成功させるって気持ちでやるのか、と言ったら、人間そうは考えられるものじゃない。短期的に、もしくはフロー状態ではそうできてもいつか不安に駆られる時が来る。そこで、諦めるでもなく、最後まで死ぬ気で努力を継続させることができる心性って、結局、結果が出なくても「自分は終わり」じゃないって態度、人生観なんだと思う。

 

他に組織文化改革についても色々考えさせられることもあったので、それはまた別の記事をおこす。

 

 

 

 

独断と偏見に基づく新社会人に対する推薦図書

 

やっぱいい本。

 

 仕事の基本 :マーケットとお客の理解

 

ライト、ついてますか―問題発見の人間学

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 仕事の基本 :問題解決

 

TQ-心の安らぎを得る究極のタイムマネジメント (SB文庫)

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  仕事の基本 :時間管理

 

 

プロカウンセラーの聞く技術

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 仕事の基本 :コミュニケーション

 

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

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仕事の基本 :コミュニケーション

 

価値を創造する会計 (PHPビジネス新書)

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仕事の基本 :会計 

 

学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

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行動科学を使ってできる人が育つ!教える技術

行動科学を使ってできる人が育つ!教える技術

 

  

仕事の基本 :独学の仕方

独断と偏見に基づく良いソフトウェア工学管理者になるための推薦図書

何につけてもワインバーグ。時々デマルコ。

もちろん、古い本だから、そのままってわけにはいかんけど、どんな本もそのままじゃダメ。チームや組織を作る参考になる。

amazonのレビューもいいこと書いているので、オススメ。

 

ワインバーグのシステム思考法  ソフトウェア文化を創る〈1〉

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ワインバーグのシステム洞察法  ソフトウェア文化を創る〈2〉

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ワインバーグのシステム行動法 ソフトウェア文化を創る (3)

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ワインバーグのシステム変革法 (ソフトウェア文化を創る)

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パーフェクトソフトウエア

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熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理

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アドレナリンジャンキー プロジェクトの現在と未来を映す86パターン

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  • 作者: トム・デマルコ,ピーター・フルシュカ,ティム・リスター,スティーブ・マクメナミン,ジェームズ・ロバートソン,スザンヌ・ロバートソン,伊豆原弓
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無知にアクセスすること

プロセスコンサルテーション

エドガー・シャインの名著『プロセス・コンサルテーション』では、コンサルタントなどの援助者と被援助者(クライアント)との関係を築くことの重要性とそのための理論と手法が述べられている。

  

プロセス・コンサルテーション―援助関係を築くこと

プロセス・コンサルテーション―援助関係を築くこと

  • 作者: E.H.シャイン,エドガー・H・シャイン,稲葉元吉,尾川丈一
  • 出版社/メーカー: 白桃書房
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誰かを援助する、ということは、どのような援助を行うか、という内容(コンテンツ)と同様、もしくはそれ以上にどのように援助を行うか、というプロセスが重要であることを強調する。

このプロセスに対する診断と介入を行い、クライアントとの関係を援助関係が効果的になるように調整する行為をプロセスコンサルテーションと呼んでいる。

 

 

ちなみに、同じく効果的な援助関係を築くというテーマでの名著に下記の本がある。

 

コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学

コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学

 

 

 

プロセスコンサルテーションの原則

 

プロセスコンサルテーションには、次のような10の原則があるとシャインは言っている。

  1. 常に援助的であること
  2. 常に現状を認識しておくこと
  3. 無知にアクセスすること
  4. 自分のすることはすべて介入である
  5. 問題も解決策も握っているのはクライアント自身である
  6. 流れに身を任せる
  7. タイミングが重要である
  8. 対決的な介入で好機をうかがう
  9. すべてはデータの源泉である。;誤りは避けられないが、そこから学ぶことが大切である
  10. 疑問があるときには、問題を共有する

 

 

当たり前に思えるものもあるが、一つ一つが意義深いので、詳細はシャインの本に任せます。

本記事では、「3.無知にアクセスすること」について

 

無知にアクセス(接近)すること

 

シャインの洞察では、援助関係は、クライアントの協力なくして成り立たない。援助しようと誰かと関係を築こうとするとき、援助を有効にするための多くの事柄について、自分が知らない、ということを受け入れるところからスタートしなければならない。

 

下記は『プロセスコンサルテーション』本文の引用

 

 

個人的な感覚でいうと、この無知へアクセスすることを難しくしているのは、「被援助者の協力がなければ、自分自身は、援助関係において、「無力」であること」を受け入れることが難しいことにあると思う。

 

クライアントの協力なしに無力であることを受け入れるのは、クライアントに責任を転嫁して押し付けるような態度とも違う。

 

自分が有能であり、強力である、というポーズも取らず、かといって、卑屈になったり、防衛的になるのとも違う。

 

武道でいうところの「自然体」のような態度。これが無知にアクセスする上で必要なのだと思う。