感情と共感とリーダーシップについてのあれこれ

共感とは何か

EQ(Emotional Intelligence)などで語られたりもするし、コミュニケーション、そして、リーダーシップの不可欠の要素として共感力(Empathy)が挙げられることが多い。近年注目されたマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラの本も、「共感」が一つのテーマだ。

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

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ここでは、共感とそして感情について、自分の考えていることをつらつら書く。まとめたかったが、全くまとまらなかったのでポエム。

共感(empathy)の定義

共感力の重要性については、英語で語られるので、ひとまず、「empathy」の意味を確認する。

en.oxforddictionaries.com

上の辞書によれば、「empathy」とは「他人の感情を理解し、共有する能力」とのこと em(en)という接頭語は、「中に」というニュアンスもあるので、他人に感情移入したりする能動的な能力を含んでいるのだと思う。

共感(empathy)の種類

一般的に、共感力には「認知的共感(Cognitive Empathy)」と「情動的共感(Emotional Empathy)」の二つがあると語られたりすることが多いようだ。心理学のテストなんかでは、これらを別の能力として扱って測定したりする。

共感 の種類 意味
情動的共感 相手の感情を自分のことのように感情移入する能力
認知的共感 相手の状況、ものの見方を理解する知的能力

時々、認知的共感のことを純粋に、理知的で感情の共有も伴わない場合もある、とされる。後で書くが、おそらく、現実の共感力を語る上で両者を厳密に区別することは難しい。

共感力の基礎

共感は、多分、スポーツのプレイのようなもの。ある程度の心的体力とスキルがいる。

自分の感情への気づきと感じることの受容

自分の感情への気づき、というのは結構重要。人は傷ついていたり、怒っていたりするのに気づかなかったりする。抑圧された感情は、制御できない行動や、意図しない他人へのインパクトとなって、対人関係に影響する。

もう一つは、家族療法家バージニア・サティアの洞察だが、自分の感情に対する反応/感情というのがある。典型的には、悲しみや怒りのようなネガティブな感情が自分に生じたとき、ほとんど同時に、それに対する怒りなり、恐怖なりの自己防衛の感情が沸き起こることがある。これは注意深いリフレクションをしなければ原因は全く分からない。これも制御できない感情が対人関係をややこしくする。

大抵の場合、感情はそのまま受容する、否定しない、感じることを許す、というのがよりよい関係や、ストレスのない生活につながるように思われる。

ただ、人によっては、トラウマの蓋をあけてしまう、みたいなことになりかねないので注意が必要なものではある。

自分はネガティブな感情に対する耐性が相当強い方で、強いネガティブな感情とワークすることが苦にならないので、そうしたリスクは全く感じないのだが。。。

他者の感情への感応

感情は伝播する。一種のテレパシーといっていい。役者はその能力を表現に活用するし、学術的な研究もある。そのおかげで、ある程度の精度で我々は他人の感情を理解することができる。ただ、感情の伝播に対する感度は、ひとつには視力のようなもので強い人と弱い人がいるということ。また、人から影響を受けないように、それらを拒絶する反応を示す場合があるなどの理由で、他人の感情をあまり感じ取れない場合がある。

他人の感情を感じ取れたとしても、それを受け取ってどう扱うか、というのは、ちょっとスキルがいる。自分勝手な解釈をしてしまうのもよくないし、また、本人が気づいてないものを受け取ってしまったときなどそのままフィードバックするのも相手を無駄に傷つけ、自己防衛に追い込むことになる。

対人コミュニケーションにおいては、大抵の場合は、ただ、伝播してくる感情をそのまま拒絶せず受け取る、というだけでコミュニケーションがスムーズになったりするし、様々な気づきをえることができるようになると思う。

受け取ったものをフィードバックしたらいい場合もあるが、

  • 解釈を極力排除すること
  • フィードバックを受け取る用意が相手にあること。(同意を得るなどの方法で)

などがないと、うまくいかないことが多いと思う。

自己の感情と他者の感情の区別、そして、投影への気づき

感情の伝播と関係するが、相手の感情を受け取ると、それを自分の感情のように感じ取り、否定したりしたくなる場合がある。ある程度は仕方ないが、人の自然な感情まで否定してしまう時がある。 (感情的に)「ネガティブなことを言うな」 みたいなやつ。 これは多くの場合、自分の中にあるネガティブな感情が他人の感情を感じ取ることで自覚せざるを得なくなり、それを否定したくなって、関係のない他人を批判する、ということだと思われる。投影の一種。

本来的には、他人がどういう感情をもっていようが、自分とは関係ないはず。周囲の人間の感情を一定の状態に保とうとするのは、何らかの不合理な心的メカニズムが自分の内面にあるとみなした方がよいと思われる。

他者の状況の内在的理解

他人の状況を理解する、というのは、単に知的に分析するだけではなく、知的に再構築した他人の経験や状況を追体験し、感情も含めて味わうことで様々な視点を得ることができるように思われる。これは小説や映画、ドキュメンタリーをみたりすることでもできるだろう。最近の個人的な経験では、演技の練習はこれの良い訓練になる。

想像力を駆使した他者の状況の内在的理解、というのは、社会や組織の一見不合理なメカニズムを理解するための非常によい手がかりになると思われる。 もちろん、それらあくまで仮説で、事実にもとづいた検証にさらされなくてはならないのだが。。。

個人的に、リーダーに共感が重要なのは、対人コミュニケーションにそれが役立つ、という点ではなく、 情緒的共感と認知的共感の合わせ技によって、人間の相互作用システムを深く理解し、組織や社会における人間系システムに新しい関係性を構築する洞察を与えてくれる点にあると思っている。

2019-01-21 この本、著者の実体験と研究も合わさってよい本。

感情の問題地図 ~「で、どう整える?」ストレスだらけ、モヤモヤばかりの仕事の心理

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