感情と意志についての現時点での理解

単なるメモ。

  • 人間は環境に実在するアフォーダンス(価値)を求めて行動する。
  • アフォーダンスには認知や理解も含む
  • 価値を求めて環境に働きかけ、環境を変え、望むものを手にする
  • 感情は行動に付随するもので本質的には動因ではない。
  • 感情は行動を規制し、同一の行動を繰り返したり、安定性を与えるために人間の行動を「縛る」。
  • 幸福感、気分の良さ、悪さ、興奮などの感情は手掛かりになるが、価値とは別のものであり、それを目的にすると誤る
  • 最も効果的なのは感情を行動と連動させること。行動をサポートさせること

 

演技メソッドとの関係

 

ロバート・フリッツのメソッド

  • ロバートのいう動的衝動(Dynamic Urge)はまさにアフォーダンスとイコールと考えてよいものと思われる

 

参考文献 

文化的―歴史的精神発達の理論

文化的―歴史的精神発達の理論

 
俳優修業 第1部

俳優修業 第1部

 
On the Technique of Acting

On the Technique of Acting

  • 作者:Chekhov, Michael
  • 発売日: 1993/11/01
  • メディア: ペーパーバック
 
Your Life as Art 自分の人生を創り出すレッスン
 

 

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

 

 

 

ヴィゴツキーの情動論とその意義

最近、仕事の合間にヴィゴツキーの本を読み直し+新しい本を買って読んでいる。 この記事では、彼の情動論についてまとめる。

理性と感情の対立についての古い議論

感情は主流の哲学者や倫理家には評判は良くない。 古代の哲学者や倫理家の多くは、放縦や、感情に任せて行動することの愚かさを説く。

そして、理性による感情の制御というのがお決まりの教訓だ。

「ストイック」という言葉の語源となったストア派の哲学に傾倒したローマ皇帝マルクス・アウレーリウスは自省録の中で、わが子を愛する感情を必死で制御しようと試みている。 一部の仏教理解では愛欲は苦しみのもとであり、断ち切るべきとされる。

人間にとって、感情は動物的な下位機能であり、理性によって制御されるべき、というのが古来の多くの倫理観に流れていた思想だ。

スピノザとクルト・レヴィン

自分が学生時代にスピノザにほれ込んだのは、彼が 「人は感情によって行動し、理性は勝てない」 と断言していたからだ。確かスピノザの『国家論』だったと思う。

国家論 (岩波文庫)

国家論 (岩波文庫)

感情が行動を決定する、というのは次の本にもでていた。

理性は感情を刺激するだけなのだ。

結局、人の行動は様々な感情の葛藤や相克の結果決まる。

こうした観点はレヴィンのトポロジー心理学にも通じるだろう。

『エチカ』ではスピノザは人の行動の動因を見事に整理して、一元的な理屈で 徳や不徳と呼ばれる特性を説明してみせた。感情は放縦の原因であるだけではなく、徳の源泉でもあるのだ。

ヴィゴツキーの情動論

ヴィゴツキーは当時の心理学における情動分析がその根底には感情を下等な本能的な機能とみなす哲学的な問題があるとする。

日本語訳の本はデカルトスピノザとの対話と書いているが、基本はデカルト的なものの批判であり、スピノザ的なものの擁護だ。

 ウィゴツキーの論点は以下の点と思われる。

  • 感情が大脳の機能であり、大きな恐怖や興奮のほか、微細な愛情や満足のような感情と本質的には異ならないこと。
  • 情動は人間のエネルギーの源泉であり、人間行動に不可欠なものということ
  • 注射針に対して腕を差し出すような理性的な行為や道徳的行為といった自己行動の制御も、脳内で構築された複雑な反応体系に基づくもので、発達した情動機能の産物であること

与えられた環境を変革していくような創造的な活動や困難に打ち勝つプロジェクトをやり通す力は感情を廃した「理性」のようなものからは生まれないのだ。

「共感の大切さ」を超えた情操教育

ヴィゴツキーは学校の場などで、感じることを軽視してはならないと説く。学習内容の楽しさを味わうために好奇心を刺激するように説く。 また、芸術教育についてもその意義を語っている。

企業の人材育成や、現代の学校教育の場でも、感情の大切さみたいなことが説かれることは多い。 一方で、個人的に危ぐするするのが、それが他者への思いやりや共感を過度に協調し、結局日本的な「みんな仲良く」とか「空気」に逆らえない人をつくってしまっているのではないか、ということだ。

ヴィゴツキーの情動に関する教育は、感情の機能をみとめ、それを克服して、自己の行動を制御することも含む。 共感のようなものも大事だが、「空気」のようなものに生み出される感情やその時々の誘惑に抗して、自分の意志や判断を貫くことができる人格を作ることが一種の脳の機能なのだと説く。

芸術教育についてのヴィゴツキーの意見

彼は芸術作品はあくまでフィクションであり、そこから教訓や道徳を引き出そうとすることに批判的だ。 芸術を芸術として創造的に鑑賞することでその意味があるのだという。

学校の教科書から文学が消えることについて、色んな意見があったけど、ヴィゴツキーの議論を根拠にした議論は聞いたことはなかったな。

久保建英にみるポーカーフェイスと激情の両立

サッカーの久保建英マニアの一人であるが、こんな動画がある。


「久保建英にオススメのクラブとレアル・マドリー復帰のための最短距離」|木村浩嗣(在スペイン・ジャーナリスト)の移籍先診断【2】

久保建英の動じないメンタルについて、絶賛している(比べられたジョアン・フェリックスはかわいそうだが。。。)

ただ、久保マニアなら知っているけど、久保建英はもともと激情家だ。 チームが大量得点している時、自分一人だけ点をとれなくて号泣した、とか、バルサが興味をもっていないことを知って泣き出したとかの逸話には事欠かない。 今シーズンでも、残留争いの終盤、敗戦なのか、決定機を外したことなのか、ピッチを去るとき、地団駄を踏んで悔しがる様子をみせている。

プレイが常にブレず、冷静に見えるのは、要するに自分の情動のエネルギーをプレイに集中させることができているからだろう。

EQというのは対人関係に関するものだけではない。個人の自分自身の行動の制御という意味でも大きな意味をもっているのだ。

芸術との関係?

久保は幼い時から読み聞かせを大量に受けて、本人も読書家みたい。 小説をよく読むとか。ヴィゴツキーによれば、芸術を味わうことで感情が浄化され、感情のエネルギーを秩序だった行動に向かわせることができる助けになる。 そういうのも彼の人格能力の高さに寄与しているのかもしれない。

非IT系にもおすすめなリモートワークに便利なタスク管理ツール「Redmine」

ふと思い立って。

 

IT系の人には常識になっているけど、たぶんリモートワークにもかなり使えるツールとしておすすめしたいのが「RedmIne

 

redmine.jp

 

本来は準備が必要なツールだけどWebサービスとして提供している会社が複数ある。

lychee-redmine.jp

 

hosting.redmine.jp

 

チケット管理ツールは色々あるけど、IT向けに特化しているものも多い。Redmineはその点、使いやすいと思う。

 

チケット管理とは

この手のツールは、タスクや問い合わせなど、何か作業が発生するものを「チケット」として定義して作れる。計画があってもなくてもいいので、突発的に発生する作業なんかもチケットにしておけばよい。

 

チケットには、担当者の他、チケットについて話した内容やその他なんでも情報を追加できる。

 

 

チケット管理ツールの良いところ

  • 今、誰が何をやっているのか。誰もやっていないタスクは何か、等が可視化できる
  • 経緯(誰がそれについてどんな作業をしたのか、)が分かる
  • なれると結構気軽にチケット上でやり取りできる

 

特に素晴らしいのは、履歴が全て残るという点。

 

あるタスクについて相互にボールを投げ合うってことはよくやられるが、それをチケット上でやる。

「このタスクについて〇〇さん、こういうことお願いします。終わったら僕が残りやります。」

みたいなとき、チケットの担当者をその人に切り替えて依頼すればよい。担当者が変わった履歴もチケットをみればわかる。

 

 

注意するべきところ

多分作業内容を明確にすることは慣れていない場合が多いので、「~の件」みたいな曖昧なチケットでも最初は良しとした方がいい。ビデオ会議ツールやチャットなんかで補足する。

 

むしろ、雰囲気でマネジメントしていたことが可視化されただけだから、それをすぐに変えようとして、無理やり細かく書かせようとすると効率が落ちると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

システムの複雑さについてのメモ

これをみて、改めて、システムの複雑さについて考えてみた

Udemy System Thinking Made Simple

複雑さを生み出すもの

Rich Hickeyの下記のプレゼンで複雑とは複数の意味をもっちゃうものと定義していることから発想。

Simple Made Easy

役割が定義できない要素の存在が複雑さをもたらす。機能や特性が要素に還元できない。例えば以下のようなもの。

  • システムの要素が担う役割が状況や時間の経過によって変わる

  • 要素が複数の役割を兼ねる

複雑なシステム

  • 人間の運動。筋肉のある箇所を使ったり使わなかったりして同じ機能を果たすことができる。
  • サッカー。局面によってFWも守備をする。DFも攻撃する

間組織の複雑性

人間行動が絡むと殆どのシステムが複雑さが増す。 人間は個々人の判断で適応行動をするから

  • 一つの機能を果たすために様々なロールを担う。ロールが流動する
  • 様々な機能を求める。製品を出力するだけではなく、給与、地位、人間関係、自尊心を与える機能を担う

制御するために必要なこと=ゴールの共有、プレーモデル/ロールの調整、満足する給与/関係性/承認の提供

情報システムにおける複雑さ

  • コンポーネントの役割分担を進めるのが吉
  • 一つのコンポーネントが何役もやるのが複雑さを増す
  • 非機能要件もコンポーネントに還元できるのが吉
  • 性能などの一部の要件は機能を実現するコンポーネントが担うため、複雑になりやすい。並行性を高めることは性能要件を並列実行数に還元できるようになるため、複雑さを抑制することになる

複雑さの価値

刻一刻と変化する状況に対応するためには、複雑かつ、自己組織化システムの方が適応しやすい。シンプルなシステムは柔軟性に欠ける。 情報システムは人の手によってしか変更されないからシンプルさが価値をもつ

にわかサッカーファンによる久保建英論

自分はサッカー経験なしで、観戦経験も薄いにわかファン。ガチのサッカーファンは妄想だと思ってスルーしてください。

 

ふと、youtube久保建英のプレーを目にしてからハマった。釣られてサッカー見出したら、面白くて、サッカーの戦術本とかも買いあさってしまった。

 

こんな記事も書いた。

 

mattun.hatenablog.com

 

最近の息抜きは久保建英の記事とか、youtubeとかを見ること。インプットするとなったら凝るので結構久保建英オタクになっていると思う。

 

久保建英選手について

サッカーのスペイン、ラ・リーガ1部に挑戦中の久保建英。スター軍団のレアル・マドリードと契約して、2020年3月現在は1部昇格したマジョルカにレンタル移籍して奮闘中。

詳細はこちら。

ja.wikipedia.org

 

10歳でFCバルセロナの下部組織に入り、そこで大活躍。中学生のときに日本に帰って話題になった。中学生の時は高校年代、高校生の時はJ3と、基本的にかなり年上の集団に混じってプレー。中学生で高校年代の大会での得点王とか、Jリーグ最年少ゴールとか、二番目に若い日本代表への選出とか。18歳でレアル・マドリードと契約。多分、Bチームの補強だったと思うけど、レンタル移籍してスペイン一部でプレー。下位チームで苦労している。

 

 

騒がれる理由と何故か多めな懐疑論

FCバルセロナは組織や特殊で、特に下部組織での育成が非常に有名。メッシを筆頭に、イニエスタ、シャビ、ブスケツみたいな世界最高レベルのテクニシャンたちを育ててきた。その下部組織で中心選手として活躍していたから、当時から日本中の期待を集めてた。自分も当時から名前は聞いたことがあった。

 

ただ、日本に帰ってから、自分みたいな熱狂的なファンとともに、アンチもかなり多い選手。なんか、人の感情を左右させる不思議な魅力がある。

 

それとは別に、今年J1でブレイクするまでは、もしくは今現在もかなり懐疑論が多かった印象。

hominis.media

 

それはなんとなく分かる。J3での試合とか結構埋もれていた。「上手いけど。。。」それだけの選手なのではないか、と感じさせるものがあった。

 

 

選手としての特性と評価

長所

サッカーIQの高さ

バルサ時代から、そして、現在も懐疑的な人も含めて誰もが認める選手としての長所は頭のよさ、戦術理解、プレービジョンみたいな言葉で表現されるところ。ゴールから逆算してプレー選択を考えられる。純粋な頭のよさに加えて、オタクが好きそうな戦術論をおそらく知識としても理解している。また、自己認知力が異常に高く、自分を客観的に分析して努力できると多くの人が評価している。

 

コミュニケーション力/メンタルの強さ

年上に混じっても物怖じしない、ピッチ外、ピッチ内でのコミュニケーション力も高いと多くの人が認めている。スペイン語はネイティブレベルで、英語で記者からの質問に答えることもできるだけの英語力もある。数学があんまり好きじゃないと言っていたが、多分、語学の天才系だと思う。

 

技術

ドリブルを筆頭に、パス、シュートの技術が高いとされる。そこら辺は下記の動画に詳しい。

www.youtube.com

現状、

ドリブル > パス > シュート

の順で得意なんだと思う。毎試合改善しているが。

 

認知能力・視野

首振りが異常に多く、プレー中、常に状況を確認している。それによって判断の質を挙げているし、プレーの精度も上げている。

 

 

個人的な評価

詳しい人には理解されているが、久保選手のパーソナリティは天才タイプのそれではなく、超努力型。課題を明確に定義して一歩一歩克服していく努力の天才。

 

ボールを扱う技術みたいなところはそこまで才能のある選手じゃないと思っている。小野伸二や宇佐美みたいなボールタッチと比べるとどこか人工的な感じがする。まだ、考えてプレーしている。第二の天性のようになるには多分、もう少し時間がかかる。選手としての特性から考えると晩成タイプのはずだけど、親の英才教育によって若くして活躍している、と思っている。

 

こういうところが久保に懐疑論が出てくる理由な気がする。

 

英才教育

このレベルまでいくのは本人の努力と才能はもちろんだけど、どう考えても親の教育がすごい。本人も父親に全てを教えてもらったと言っている。細かいタッチのドリブルなんかはお父様がメッシを研究して教えたのではないかと思っている。

 

バルサに行った子供の頃からプロが使う体幹レーニングのジムに行ったり、中西のパーソナルトレーニングをつけたり、まあ、すごい。長友と同じトレーニングを10歳からやっているわけだ。

 

 

久保建英の本当の才能

さて、ここからが自分が本当に書きたかったことなんだが、久保選手はよく、「上手い」選手で、周りとの連携が鍵、と言われているんだが、自分はそう思っていない。何年か後に答え合わせするために自分の直感を書く。

 

前に書いたように、久保のボールを扱う技術は英才教育と本人の努力の成果でトッププロの中では突出した才能ではないと思ってる。

 

彼の他の人に容易に真似できない本当の才能はむしろ、弱点と思われてきたフィジカル面だと思っている。

 

ボディバランスと体の使い方の上手さ。

 

フィジカルが弱かった時からシュートの威力があったこともそう。これは小さい頃から。そして、姿勢がいい。体幹レーニングをつんでもあそこまではいかない。武道家のような立ち姿。これが彼のプレーを独特のものにしている。パスやシュートよりもドリブルがまず通用したのはそれが原因と思う。

 

自分はサッカーみたいな球技はそこまで好きじゃない。やっているのは柔道(弱いけど)。そして、自分が昔、久保建英と同じように惹き込まれたサッカー選手は柔道の経験もあったこの選手。

 

レアル・マドリーのレジェンド。

 

www.youtube.com

ジダンがボールをもつと時間が止まると言われた。独特の間で局面を打開してしまう。体の使い方が美しい。立ち姿だけでも絵になる。久保建英も立ち姿が綺麗。自分はそういうのに惹かれる。

 

もちろん、長い手足を利用したジダンとは違うけど、相手に飛び込ませず、間合いを制して決定的なプレーをする、みたいな片鱗は見せている。

 

今はまだ体ができていないから、彼の本当の才能が発揮されていない。21歳くらいになったら、その真価がようやく見られ始めると思う。対人がめちゃ強くなると思う。

 

また、個人で局面を打開する、すごい選手になりたい、と昔インタビューで言っていた。

 

久保建英の未来予想:バルサよりマドリーの方が似合っている

今のマジョルカでのプレー。バルサでの久保を期待していた人には辛いかも。そして、何人かのプロ選手が、「連携で生きる」久保がいきない環境だと評価している。

 

自分はまだ開花していないだけで、下位チームでも試合を決めてしまうタイプの選手になると思っている。それが世界のどのレベルまで行けるのかは分からないけど。

 

自分の久保の未来予想は下記。

  • 連携して崩すだけではなく、ボールを持ったら独特の間で場を支配して、局面を一人で打開してしまう強烈な個。
  • 自分の体の特性を生かした鬼のキープ力

もちろん、頭のいい選手だから戦術的な行動も取れる。

 

 

だから次のように思う。

 

未来の久保建英に似合うチームは連携のバルサではなく、個の集まりであるレアル・マドリー

 

 

本人は案外個人技が求められる今の環境を楽しんでいるのではないかと思っている。

 

 

書評『A Philosophy of Software Design』:古典的かつ本質的な設計論

ここ数日で読んだ下記の本。非常に感銘受けたので書評を書く

 

A Philosophy of Software Design

A Philosophy of Software Design

  • 作者:John Ousterhout
  • 出版社/メーカー: Yaknyam Press
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: ペーパーバック
 

 

著者はスタンフォードで教えているが、元実務家らしい。大学のコースの内容を本にしたものという。研究領域は比較的低レイヤっぽい。題名は訳すと「あるソフトウェア設計の哲学」

 

総評

ソフトウェア設計を複雑性(complexity) を減じるためのものだ、という基本的な考えのもと、非常に実践的なアイデアが学生のよくある間違いや好ましい例とともに記述されている。UNIXの設計を良いものと主張する場合が多い。間違いの例などは自分もやっていたな、と思うものもあり、かなり考えさせられる。数年教えてきた内容を使っているので、伝え方がうまい。

 

基本的なアイデアは古典的なものであり、目新しいというより原点回帰の設計論。当初はビジネスアプリケーションの設計には微妙かな、と思ったが、むしろ大事と思った。

 

 

アジャイルの罪

いくつかの議論は、いわゆるあちらのアジャイルのグルたち(アンクル・ボブやケント・ベック)と違うことを主張している。例えば、Unit Testには肯定的だが、TDDは設計を疎かにする恐れあり、として否定的だ。また、「クラスは小さくすべし」というアンクル・ボブの勧めに対して、「小さく分けすぎるな」という。

 

何も考えずにアジャイルで機能中心にガンガン作るってのをやると良い設計にならない/技術的負債がたまるって認識がそろそろ一般化してきていると思われる。その対策としてDDDなんかが注目されているのだと思うけど、この本に書かれているような基本的な哲学を抜かしてそこに向かうとなかなか厳しいことになると思われる。

 

こうした短期的な機能中心のプログラミングを著者は戦術的プログラミングと呼び、より長期の良い設計を探究しながら行うプログラミングを戦略的プログラミングと呼んでいる。TDDや機能中心のアジャイルは戦術的プログラミングを助長するという。

 

私見としてはプラクティスの提唱者たちは本書における基本的な考え方を身につけているから害はないのだろう。

 

抽象化というプログラミングと設計の核心

著者はインクリメンタルな開発には賛同するけど、それは機能(feature)単位ではなく、抽象単位であるべきだという。モデル単位と言い換えてもいいと思う。

「インクリメンタルに開発する」というのは一般的にはいいアイデアだ。だが、開発の増分というのは、機能ではなく、抽象であるべきだ。もちろん、機能によって抽象が必要とされるまで考えることを延期するのはいい。だが、ひとたび、抽象が必要とされれば、適切に設計するのに時間の投資を惜しんではならない。

 

TDDが設計を阻害するメカニズムとして次のように述べている。

テスト駆動開発は過度にインクリメンタルだ。...抽象化が必要になったならば、その抽象をバラバラに作り出すことをしてはならない。抽象は全体を一度に設計しなければならない。(もしくは、ある程度核となる機能のまとまりを提供できるだけの大きさは必要だろう)

 

ある程度一般的なモジュール(somewhat general-purpose fashon)

著者がいう抽象化のための実践的な指針が「ある程度の一般化」だ。SI稼業で何らかの成功体験がある人は、顧客の要件を鵜呑みにせず、後でどうにでもなるような仕組みを提供してうまくいった経験がある人は多いだろう。これはG.M.ワインバーグが著書でも触れていたテクニックで、長い歴史がある。

 

ただ、この一般化をやりすぎると結局何ができるのかが分からなくなったり、複雑性が設定ファイルやテーブルのデータ内容に移動しただけ、ということになりかねない。SIのプロジェクトでもよく見る。なんでも入るテーブルみたいなやつもそれだろう。一般化のしすぎ。

 

著者は個別の煩雑な要件を満たし、かつ、複雑性を減じるようなバランスの取れた一般化された目的のモジュールを設計することを推奨している。著者の例はテキストエディタの編集処理の際にUIモジュールから呼ばれるメソッドだ。

 

個別のユーザーの操作に対応したメソッドを一つ一つ提供するのではなく、より一般的なメソッドを提供し、それをUIが使う。

 

個人的にはこれらの工夫はドメインモデリングにつながると感じた。ソフトウェアのUIの下の層にドメインの本質が構築される。多分、いいUIはその下の層と操作も一致するか近しくなる。

 

ソフトウェア設計の本質への回帰

本書はUNIXのファイルアクセスやネットワークプロトコルのソフトウェアとしての設計などが多く出てくる。

 

近年のDDDなんかだとともそれば、基盤的要素は軽視されがちだけど、ソフトウェアを作る上ではそれらも大切な要素の一つ。むしろ、技術的な要素は上手く設計がされている場合が多いから問題にならない、といった方がいいかもしれない。TCPを意識することが我々があまりないってのは偉大な設計の勝利なんだよな。

 

この本は現代のプログラマが、ソフトウェア設計の歴史的な蓄積を身につけるのに非常に優れた本だと思う。そしてそれは新しいテクニックをみにつけ、活用するための土台になる。

 

こういうのが大学で教えられている、というのは非常に素晴らしいことだな、と思った。

 

 

 

独断と偏見にもとづく政治について学ぶための推薦図書

眠れないので、ふと昔を思い出して記事を書くことにする

自分の背景

  • 政治学修士。研究者の道は挫折。今はIT業界。王道の政治過程論、政治哲学、比較政治学その他のものは基本ナンセンスだと思って、地域研究を専攻してた。

  • 政治的志向は、中道右派 / 平等 < 自由と公平 / 適切に管理された市場経済の信奉者/ 立憲主義万歳 / 社会権等は擁護

全く知識がない人へ

高校の教科書がおすすめ。なんだかんだ言って、日本の教科書はレベルが高い。検定教科書はアップデートもされていくのでそこも良い。

俺的おすすめ

かなり変わったおすすめだと思う。

ベースの本

日本国憲法論 (法学叢書 7)

日本国憲法論 (法学叢書 7)

  • 作者:佐藤 幸治
  • 出版社/メーカー: 成文堂
  • 発売日: 2011/05/01
  • メディア: 単行本
とりあえず、これを読んでおけば生きた政治のかなりの部分が学べるんじゃないかと思う。佐藤先生は政治理論とかも参照しながら統治制度なんかも解説している。抽象的な人権論とか、政治哲学なんかより、実際に生きた人間に影響を及ぼした判例って事例から学べることは多い。まあ、600ページ以上あるので、佐藤先生の他の本でもいいかも。でも網羅しているのはこれだから。

危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)

危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)

政治における力と理想や規範/法の問題についての切れ味鋭い論考。国際政治の古典だけど、リアリストとユートピアンのアイデアの対立はあらゆる政治現象で見られるものと思う。

政治学の天才。トクヴィルが19世紀のアメリカで現実に行われている民主主義を鋭く分析した名著。やばい。。。

歴史

抽象的な政治学談義は無視して、実際に我々人間がどんな政治を行ってきたのかを知ることはとてもためになると思う。近代以降の歴史を知れば今を理解する助けになるし、古代の様々な歴史は時を超えて普遍的な原理を見出すのにいい。 個人的には

  • 近現代ヨーロッパ史(どのように国民国家が生まれ、民主主義が広がって行ったのか、どのような差異が地域であったのか)

  • 近代以降の世界史(ヨーロッパに世界が支配され、その支配がどのように瓦解して行ったのか。ヨーロッパにどうやって対峙して行ったのか、戦後の経済発展と民主主義の広がりと失敗)

  • 幕末以降の日本史(西洋の衝撃をどのように受け入れ、近代化を成し遂げ、破滅の戦争に突き進んで行ったのか。)

あたりのテーマが今生きると思う。昔なら、ソヴィエトというものを理解しなければならなかったけど、今は、多分、開発独裁みたいな文脈で理解すればいいんじゃないかと思う。本はたくさんいいのがあると思うけど、個人的にマニアックな本をいくつか。

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人

アメリカ人による日本研究者の戦後史。視点が新鮮。

ゾルゲの見た日本【新装版】

ゾルゲの見た日本【新装版】

ソヴィエトの対日スパイだったゾルゲの分析。戦前の日本の軍国主義化の根底にあった構造への鋭い洞察。

ヨーロッパ史については最近すごくいいシリーズが出てたね。

フランス革命

フランス革命ナチスドイツ/ファシズムというのは、政治学における非常に重要なトピックだけどここでいくつか。

[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき

[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき

政治的洞察の天才エドモンド・バークの古典。フランス革命の徹底的な批判書。保守主義の父と言われるけど、彼はアメリカの独立には賛成した改革論者。 頑迷な保守主義者ではない。彼の論理は、フランス革命をある種の模範としたロシア革命やその他の革命がなぜ、殺戮と独裁に帰結していったかを恐ろしいほど的確に洞察している。 岩波の訳書では「バークに学ばずに政治を行うのは、海図のない航海のようなもの」という言葉が出てた気がする。

フランス革命についてはいろんな新しい歴史書があるけど、個人的にはトクヴィル先生の下記の本がお気に入り。歴史学的には多分、今では突っ込みどころ多いかも。

旧体制と大革命 (ちくま学芸文庫)

旧体制と大革命 (ちくま学芸文庫)

ハンナ・アレントの下記の本もどちらかというとフランス革命に批判的。

革命について (ちくま学芸文庫)

革命について (ちくま学芸文庫)

民主主義の可能性と限界

大衆心理についての警句

世論〈上〉 (岩波文庫)

世論〈上〉 (岩波文庫)

民主主義のダメさ加減は、古代ギリシャやローマの歴史を学ぶといい。そして、個人的にはおすすめなのが下記。

政治学 (西洋古典叢書)

政治学 (西洋古典叢書)

古典中の古典だけど、普通に政治学の本として読めると思っている。

法学

民主主義にはいろんな欠陥があるわけだけど、現代でうまくいっている要因のかなりの部分が立憲主義と法の支配、人権概念みたいなもののおかげと思っている。その根底には法についてのアイデアがある。下記の本も好き

法における常識 (岩波文庫)

法における常識 (岩波文庫)

理系っぽいやつ

組織の限界 (ちくま学芸文庫)

組織の限界 (ちくま学芸文庫)

感情の役割。なぜ、これが絶版なんだ???

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情